読書メモ

角田光代「森に眠る魚」

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読書メモ:角田光代「森に眠る魚
2008年初版

1999年の「文京区幼女殺人事件」をモチーフとしているそうです。

ママ友としてつながった5人の女性たち。
育児の悩みを相談したり、ランチで息抜きしたり。
とてもいい関係だった5人の関係は、
子どもの「お受験」を通して少しずつこじれていきます。

"この人たちとなら、ユウくんママ、コウちゃんママといったよそよそしい
付き合いでもなく、「ママ友」なんて一時的なつながりでもない、
もっと長い付き合いができるのではないか。
だれかの母とか、だれかの妻ではなく、自分自身として"

最初に抱いていた、他の女性たちへの期待や好感は
だんだん憎しみに近い感情まで変わっていきます。

開けっぴろげで話していて気持ちのよかった」自由な印象の女性は
粗暴な子育てをするだらしない人に変わり

なんでも話すことができた関係は
お互い探り合い、隠しあう
息苦しい関係へと変わっていく。

子どものお受験には興味がない、好きなように生きさせればいいと
考えていた女性たちも
だんだんと焦り、
自分の子どもだけが遅れているのではないか?
私は子どものことを真剣に考えていないダメな母親なのではないか?
他のママたちは隠しているだけで、実は受験の準備をしているのでは?
と、疑心暗鬼になります。

そのうち、あんなに可愛いと思っていたお互いの子どもにさえ
敵意が生まれ、他の子どもが褒められると必死にアラを探そうとしたり
挙句の果てには泣き声がうるさいと暴力を振るって怪我をさせてしまったり。

最後の章では、5人の名前が消され
「彼女」という呼び方でそれぞれの重い心情が吐露されます。

その中では、冒頭の「文京区幼女殺人事件」を彷彿とさせるような場面も・・。

「森に眠る魚」にひきこまれたのは
5人の女性が最初はどう見ても普通のいい人たちにしか見えなかったのに
過去のトラウマに近い出来事や
流産
お受験をめぐる確執を経て
どんどんとクレイジーとも思われる人格に変わっていったこと。

「お受験」「教育ママ」という言葉を聞くとき、
子どもに自分の夢を重ねているとか
そんなに必死になってみっともない、みたいな
嘲笑を交えて聞くことも多い気がします。

でも、このママたちを見ていると
確かにそういうところもあるのだけれど
別に、異常に自分に自信がないとか
子どもに夢をたくしたがっているとか
周りの目を気にしすぎているとかいうわけではなくて
ごく普通の人間に見えるのです。

自分に、子どもに必死になるあまり
冷静さを欠いてしまったり
憎悪や嫉妬の気持ちを生んでしまう。

それは、普通の人間の感情だと思う。
誰にだって、生まれる可能性がある感情だと思う。

だから、彼女たちを責めることはできない。

そしてもう1つ気になったのが、
彼女たちはそれぞれ旦那さんがいるにもかかわらず、
終盤までほとんどコミュニケーションを取らないんです。

ちゃんと日常会話はするし、不仲でもないけれど
大切なことはいつも話せない。
話しても、「そんなことは聞きたくない」と言われたり
「なんでも話し合おうね」と言われていても、
自分の考えがいつも否定されるのを知っていて、言えない。

だから、友達にいうしかないけれど
この5人以外には特に友達がいない人がほとんどで、
すごく狭い世界の中で、深く交じり合っている。

お受験とか、お受験をめぐるママたちの葛藤って
日本の闇、のように取られがちな話題かもしれないけれど
自分の子どもによりいい機会を与えたいとか
いい場所で教育を受けてほしいって思うことって、そんなに悪いことなのかな。

少なくとも、この本に出てくるママたちは
自分勝手なこともあるし
子どもを傷つけてしまうこともあるけれど
それでも、もっといい方法がないか考えている。
考えた結果、子どもにとってよくない影響を及ぼしてしまっているんだけれども。

私は幼稚園からお受験戦争の真っ只中にいて
教育ママに育てられたから
色々と歪んでしまったこともあって、
うつ病とか不登校にもなって、
カウンセラーの先生はひたすら親を責めていたのだけれど

母の育て方は間違っちゃっていたのかもしれないと思うことはあっても
責める気にはならなかった。
小さい頃は遊びたかったし、鬼のようになる母が怖くて
憎かったこともあるけれど
今は人間そんな強くないよね、と思う。

思い通りにいかなくてイライラしたり
誰かに自分の夢を託してみたり

そんなこと1つも許されないんだったら、とても生きづらい。

とはいえ、過去に起きた事件のように
子どものことを思って始めたはずのお受験やママ友が
いつしか憎しみの材料になって
小さな命を奪ってしまう結果になるのは、悲しすぎる。

狭い世界で
限られた視野で生きていると
人は行き詰まる。

だから、もっと他人に優しい世界にならなきゃと思う。
一人の人間の感情や行動を責めるだけではなくて。

電車で赤ちゃんが泣いていても
満員電車にベビーカーが入ってきても
疲れて座っている目の前にマタニティマークをつけた女性が立った時も

みんなが気持ちよく
だって赤ちゃんってなくよね、とか
こんな朝早くからベビーカー押さなきゃいけない事情があるなんて大変だよね、とか
私も疲れてるけどお腹に赤ちゃんがいたらもっと疲れるよね、とか

他人のことを思える人が作る社会、世界にならないと

狭い世界に追い込まれた人たちは
自分の理性を失って
行き詰まってしまうよ。

そんなことを考えさせられた、「森に眠る魚

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